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書評─『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(『月刊日本』平成25年6月号)

  安政5(1858)年6月、徳川幕府の大老・井伊直弼は朝廷の勅許なしに日米修交通商条約に調印、イギリス・オランダ・ロシア、フランスとも同様の条約を結んだ。これらの条約は、関税自主権がなく、治外法権を承認する不平等条約だった。各条約における治外法権の撤廃は、明治27(1894)年7月に結ばれた日英通商航海条約を契機にようやく実現した。だが、わが国は戦後、1894年以前に逆戻りしてしまったのではないか。その起点が、日米地位協定(前身は日米行政協定)の締結だったと見ることもできる。
 本書は、この日米地位協定の問題点をQ&A方式でわかりやすく解説している。問題点は以下の5つに整理される(75頁)。
 ①米軍や米兵が優位にあつかわれる「法のもとの不平等」、②環境保護規定がなく、いくら有害物質をたれ流しても罰せられない協定の不備など「法の空白」、③米軍の勝手な運用を可能にする「恣意的な運用」、④協定で決められていることも守られない「免法特権」、⑤米軍には日本の法律が適用されない「治外法権」――。
 地位協定の発端は、強大な権益を確保しようとするアメリカの横暴だった。日米安保におけるアメリカ側の交渉担当者ジョン・フォスター・ダレスは「われわれが望む数の兵力を、[日本国内の]望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保すること」を目標にしていた。この事実は、ダレスがわが国を属国扱いしていた証拠である。 続きを読む 書評─『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(『月刊日本』平成25年6月号)